紀伊国屋書店札幌本店の語学参考書コーナーで立ち聞きした話。
HSKのテキスト買いに紀伊国屋行ったんですよ。
文法と作文が弱いからHSK対策のほかになんか参考書買っとくかーって棚の前で立ったり座ったりしていたら、隣で台湾華語の棚を見ていたお兄さんが店員さんを呼び止めて一言。
「中国語やるのも初めてなんですけど、台湾に行くことになって……。それで、北京語より台湾華語をいきなりやったほうがいいって言われて」
誰だそんな適当ぶっこいたのは。
そもそも中華人民共和国と中華民国の違い、わかってますか?
いや、政治的に正しい表現はチャイニーズタイペイとかいろいろあるんですけど、いわゆる「中国」と「台湾」がどういう成り立ちで今に至って、どういう確執があるのかって話。
もともと台湾という島が中国の領土に組み込まれたのも、中国の歴史の長さから見ればそんなに昔のことではありません。清朝以前はオランダに統治されたり、明朝の遺臣が落ち延びてきたり、いろいろあったのですが、台湾省が福建省から分離されたのが1885年のことです。日本は明治18年。
で、10年後の1895年、日清戦争の結果下関条約によって台湾は日本の統治下に入ります。じゃあ清朝は10年しか台湾統治してないの? って書き方になってますが、1885年以前は積極的に統治していなかったというだけで、福建省やその他の地域からモリモリ移民が台湾に移り住んでいました。
1945年、日本が敗戦すると、台湾には大陸から中華民国がやってきます。ややこしいのですが、日中が大陸で戦っている間(と、日本が敗戦してからもうちょっとの間)大陸では国民党(中華民国)と共産党(のちの中華人民共和国)が内戦を繰り広げていました。
その内戦に決着がついて中華人民共和国が成立するのが1949年のこと。国民党は台湾に逃げ延び、そこで中華民国を維持していくことになります。
現在中華人民共和国は台湾に中華民国が存在することを認めておらず、台湾も中国の一部であり、「ひとつの中国」であることを主張しています。
こういう歴史を見ていくと、「中国」と「台湾」が分かれたのはそんなに古い時代ではないことがわかりますよね。
さらに国民党統治時代には普通語教育も推し進められ、大陸の人が台湾に行って言葉が通じないということはあまりありません。
そもそも現在普通語の元になっている北京語が生まれたのも清朝のころの話なので(福建人は北京語話さないと思いますが……)、国民党と共産党は同じ言葉で口喧嘩だってできるわけです。
要するに、台湾に行くのに普通語を学んで無駄はないということです。
語学は土台だ
例えば、アメリカ英語とイギリス英語の違いもよくネタになりますね。
でも、これから英語を始めようという人が、いきなり「イギリス人に一目置かれるイギリス英語の本」を手に取りますか?
まずは、基礎となる文法、日常生活で使う単語、からですよね。
(日常生活で使う単語が、北京と台湾に限らず中国各地方で違ったりしてめんどくさいのですが、とりあえず普通語の語彙が通じないということはないはずです)
特に文法は地域によって大きく違うことのない部分です。
北京語と台湾華語の文法にそんなに違いがないのなら、参考書の充実している北京語の文法をまずは学び、補足として北京語と台湾華語の違いを覚えたほうがずっと効率がいいと思います。
短期間の旅行で現地の人にウケをとりたいとかでなければ、いきなり台湾華語のテキストを手に取るのはやめるべきでしょう。
文法は語学の土台です。それは自分の中ですべての基礎になるというだけではなく、広い地域の多くの人たちがその土台の上で生活しているということでもあります(そうじゃなきゃ、言葉を使って意思疎通はできないわけですから……)。
マイナー言語マニア、ここにもいますけど、まずメジャーな言語を学ぶというのは思った以上に効率的なものです。北京語と台湾華語のようにほとんど差がない言語のみならず、ヨーロッパの言語ならまず英語を学ぶとか。使っている人の多い言語をまず学んでおけばつぶしもききますし。
あのお兄ちゃんに「悪いこと言わないからとりあえず中国語入門って書いてある本買いな……」ってアドバイスしたかった……。という、くやしさの昇華のための記事でした……。